ボーアの原子モデル

ボーアの原子モデル

2025-04/10

ボーアの原子モデル

授業でやったのでメモ.

ボーアの原子モデルはサムネのような, 原子核の周りを電子がくるくる回るというモデルである. また回るときの軌道は決まっていて, 好きな軌道半径には存在できない. これはボーアのモデル以前に存在したラザフォードの原子モデルもおなじ.

ラザフォードの原子モデルには, 円運動する電子は電磁波を放出しながら原子核へ落ちるという問題があった. しかし原子は安定して存在できている. ボーアはこの矛盾を回避するために量子条件と振動数条件という仮定を導入し, モデルを構築した.

ボーアの原子モデルが正しいというは裏付けはされていないが, 水素原子の発光スペクトルを上手く説明でたため, 受け入れられた. 現在では, シュレディンガー方程式から導かれるように電子は確率的に存在しており, 粒子が回っているというボーアのモデルは完全な理論ではないとされている.

🌟 量子条件

電子が以下の式に示す軌道に存在する場合, 加速運動をしていても電子がエネルギーを放出しないと仮定をする.

$$ rmv=\frac{h}{2\pi}n \quad (n=1,2,3,\ldots) \\ \\[1em] \begin{aligned} r &: \text{電子の軌道半径} \\ m &: \text{電子の質量} \\ v &: \text{電子の速度} \\ h &: \text{プランク定数} \\ \end{aligned} $$

重要なのは, あくまで仮定であり, 加速運動をする電子がエネルギーを放出しない理由は説明されていないという点である.

先生に聞いてみたところ, 現代的な考え方では電子は粒子ではなく確率的な波として存在しているため, そもそも回転など無く, 電子はエネルギーを放出しないらしい.

🌟 振動数条件

軌道間を遷移する場合, エネルギーを放出または吸収し, そのエネルギーは次の式で表される.

$$ h\nu = E_m - E_n \\[1em] \begin{aligned} h &: \text{プランク定数} \\ \nu &: \text{放出または吸収される電磁波の周波数} \\ E_m &: \text{電子が軌道 $m$ のときのエネルギー} \\ E_n &: \text{電子が軌道 $n$ のときのエネルギー} \\ \end{aligned} $$

軌道, エネルギーは飛び飛びになる

仮定(1) が成り立つとして電子の軌道半径, エネルギーを計算すると, 各値は連続な値をとれず, 離散的な値になることが求められる.

実際に計算してみる.

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🌟 軌道半径を求める

遠心力とクーロン力が釣り合っている事を利用して, 電子の軌道半径 $r$ を求める.

遠心力 $F_P$ とクーロン力 $F_C$ は, それぞれ次のように表される. 原子の内部は真空とし, 誘電率は $\varepsilon_0$ とする.

$$ F_P=\frac{mv^2}{r} \\ \\[1em] \begin{aligned} F_C &= \frac{|+q||-q|}{4\pi\varepsilon_0r^2} \\[1em] &= \frac{q^2}{4\pi\varepsilon_0r^2} \tag{1.1} \end{aligned} $$

電子は円運動をしており, 遠心力とクーロン力は等しいため,

$$ F_P=F_C \\ \\[1em] \frac{mv^2}{r}=\frac{q^2}{4\pi\varepsilon_0r^2} \tag{1.2} $$

半径 $r$ について解くと,

$$ r=\frac{q^2}{4\pi\varepsilon_0mv^2} \tag{1.3} $$

となる.

ここで仮定(1)を $v$ について変形する.

$$ v=\frac{h}{2\pi rm}n \quad (n=1,2,3,\ldots) $$

式 $(1.3)$ に代入すると,

$$ r=\frac{\varepsilon_0 h^2}{mq^2}n^2 \quad (n=1,2,3,\ldots) \tag{1.4} $$

よって電子の軌道半径は離散的に定まることが示された.

🌟 エネルギーを求める

電子の持つエネルギーとは, 運動エネルギーとクーロンポテンシャルエネルギーの和である.

クーロンポテンシャルエネルギーは電子をクーロン力によって無限遠点から $r$ まで持ってくるのに必要なエネルギーである.

まずは運動エネルギーを求める. 運動エネルギーは次のように表される.

$$ E_K=\frac{1}{2}mv^2 \tag{2.1} $$

式 $(1.2)$ を $v^2$ について変形し, 式 $(2.1)$ に代入すると,

$$ v^2=\frac{q^2}{4\pi\varepsilon_0mr}\\ \\[1em] \begin{aligned} E_K &= \frac{1}{2}m\left(\frac{q^2}{4\pi\varepsilon_0mr}\right) \\ &= \frac{q^2}{8\pi\varepsilon_0r} \end{aligned} $$

次にクーロンポテンシャルエネルギーを求める. 原子核と電子の間に働くクーロン力は式 $(1.1)$ で表される. 無限遠点から $r$ まで持ってくるのに必要なエネルギーは, クーロン力を $r$ まで積分することで求められる.

$$ \begin{aligned} E_C &= \int_{\infty}^{r}F_Cdr \\[1em] &= \int_{\infty}^{r}\frac{q^2}{4\pi\varepsilon_0r^2}dr \\[1em] &= \frac{q^2}{4\pi\varepsilon_0} \int_{\infty}^{r}\frac{1}{r^2}dr \\[1em] &= \frac{q^2}{4\pi\varepsilon_0}\left[-\frac{1}{r}\right]_{\infty}^{r} \\[1em] &= -\frac{q^2}{4\pi\varepsilon_0r} \end{aligned} $$

よって, 電子の持つエネルギーは次のように表される.

$$ \begin{aligned} E &= E_K+E_C \\[1em] &= \frac{q^2}{8\pi\varepsilon_0r}-\frac{q^2}{4\pi\varepsilon_0r} \\[1em] &= -\frac{q^2}{8\pi\varepsilon_0r} \end{aligned} $$

式 $(1.4)$ を代入すると,

$$ \begin{aligned} E &= -\frac{q^2}{8\pi\varepsilon_0 \frac{\varepsilon_0 h^2}{mq^2}n^2} \quad (n=1,2,3,\ldots)\\[1em] &= -\frac{m q^4}{8\pi\varepsilon_0^2 h^2} \frac{1}{n^2} \quad (n=1,2,3,\ldots) \tag{2.2} \end{aligned} $$

よって, 電子の持つエネルギーは離散的に定まることが示された.

🌟 物質波

物質波の考えを用いて軌道半径の離散性を説明することもできる. いつかやる

水素原子の発光スペクトルを説明できるか

🌟 水素のスペクトル

何かしらの原子で満たされた空間に電場等のエネルギーを加えると, 原子中の電子が励起され, 電子が高いエネルギー準位に遷移する(軌道を遷移する). その後, 電子は元のエネルギー準位に戻るときにエネルギー(電磁波)を放出する. この電磁波を分光器で観測すると, 原子固有の波長の光が観測される. これが発光スペクトルである.

発光スペクトルはいくつかの波長の輝線からなり, ボーアの原子モデルが構築される以前から, 各波長は次の式で表されることが知られていた.

$$ \begin{aligned} \frac{1}{\lambda} &= R\left( \frac{1}{m^2}-\frac{1}{n^2} \right) \\ & \quad (m=1,2,3, n=m+1,m+2,\ldots) \tag{3.1} \end{aligned} $$

$R$ はリュードベリ定数. 今からこれを仮定を用いて求める.

🌟 やること

仮定(2) を用いて, 水素原子の軌道遷移時のエネルギーを計算し, リュードベリ定数 $R$ を求める.

リュードベリ定数は実験的に求められた値で, 仮定(2) を用いて求めた値と一致すれば, ボーアの原子モデルが水素原子の発光スペクトルを説明できることになる.

🌟 電磁波の波長を求める

仮定(2) と式 $(2.2)$ を用いて, 水素原子から放出される電磁波の振動数を求める.

$$ \begin{aligned} h\nu &= E_m - E_n \\[1em] \nu &= \frac{1}{h} \left( -\frac{m q^4}{8\pi\varepsilon_0^2 h^2} \frac{1}{m^2} +\frac{m q^4}{8\pi\varepsilon_0^2 h^2} \frac{1}{n^2} \right) \tag{3.2} \\ &\quad (m=1,2,3, n=m+1,m+2,\ldots) \end{aligned} $$

また, 波長 $\lambda$ と振動数 $\nu$ と光速 $c$ には次の関係があるので,

$$ \lambda = \frac{c}{\nu} \tag{3.3} $$

式 $(3.2)$ を式 $(3.3)$ に代入すると, 水素原子から放出される電磁波の波長を求めることができる.

$$ \begin{aligned} \lambda &= \frac{hc}{\left( -\frac{m q^4}{8\pi\varepsilon_0^2 h^2} \frac{1}{m^2} +\frac{m q^4}{8\pi\varepsilon_0^2 h^2} \frac{1}{n^2} \right)} \\ &\quad (m=1,2,3, n=m+1,m+2,\ldots) \end{aligned} $$

リュードベリ定数を求めやすいように整理して逆数にしておく.

$$ \begin{aligned} \frac{1}{\lambda} &= \frac{m q^4}{8\pi\varepsilon_0^2 h^3 c} \left( \frac{1}{m^2} -\frac{1}{n^2} \right) \\ &\quad (m=1,2,3, n=m+1,m+2,\ldots) \end{aligned} $$

🌟 リュードベリ定数を求める

先ほどの式は式 $(3.1)$ と同じ形をしているので, 係数を比較するとリュードベリ定数を求めることができる.

リュードベリ定数の定義

$$ \frac{1}{\lambda} = R\left( \frac{1}{m^2}-\frac{1}{n^2} \right) \quad (m=1,2,3, n=m+1,m+2,\ldots) $$

先ほどの式

$$ \frac{1}{\lambda} = \frac{m q^4}{8\pi\varepsilon_0^2 h^3 c} \left( \frac{1}{m^2} -\frac{1}{n^2} \right) \quad (m=1,2,3, n=m+1,m+2,\ldots) $$

リュドベる

$$ R = \frac{m q^4}{8\pi\varepsilon_0^2 h^3 c} $$

実際に値を代入してみる.

$$ \begin{aligned} m &: 9.11\times 10^{-31} \text{(kg)} \\ q &: 1.6\times 10^{-19} \text{(C)} \\ \varepsilon_0 &: 8.85\times 10^{-12} \text{(F/m)} \\ h &: 6.63\times 10^{-34} \text{(Js)} \\ c &: 3.0\times 10^8 \text{(m/s)} \\[1em] \end{aligned} $$$$ \begin{aligned} R &= \frac{(9.11\times 10^{-31})(1.6\times 10^{-19})^4}{8\pi(8.85\times 10^{-12})^2(6.63\times 10^{-34})^3(3.0\times 10^8)} \\[1em] &\approx 1.1\times 10^7 \text({m}^{-1}) \end{aligned} $$

これは実験的に求められたリュードベリ定数 $R=1.097\times 10^7 \text{m}^{-1}$ とほぼ一致する. よって, ボーアの原子モデルは水素原子の発光スペクトルを説明することができるといえる.

参考文献